12月定例会提案説明(07年12月12日)


 議題となりました議発第2号「高知県立総合看護専門学校の設置及び管理に関する条例の一部を改正する等の条例の一部を改正する条例」議案について、提出者を代表して提案理由の説明をさせていただきます。
 この条例は、平成17年12月議会において、総合看護専門学校を平成21年4月をもって廃止することとした条例について、県内における助産師の安定的な養成及び確保を図るため、高知県立総合看護専門学校の助産学科の廃止を平成27年度末まで延期しようとするものであります。
 提案理由は次のとおりです。
 一つには、平成17年12月議会で総合看護専門学校の廃止条例が決定されて以降のお産を取り巻く情勢と廃止決定の際の前提が大きく変化していることであります。
 廃止条例が決定されて以降、全国的な産婦人科医師不足の深刻化や横浜市の日本有数の産婦人科病院での無資格助産など、お産の危機の連続が明らかになりました。また、奈良県では妊娠6ヶ月の女性が病院に受け入れを断られ、救急車内で死産したという事故が起きて以来、周産期医療態勢の不備や搬送態勢のあり方も喚起されています。
 そして、県内においても、須崎くろしお病院で産婦人科が廃止されるに至ったり、県周産期医療協議会では、破綻一歩手前の本県の周産期医療のありかたや搬送態勢、ハイリスク妊娠などについて議論がされており、「医師としての使命感だけで乗り切るのはもう限界」と言われる産婦人科医師の過酷な実態があります。これらの改善や子育て支援の意味からも、助産師の確保は喫緊重要な課題であることを多くの県民が認識しています。
 さらに、総合看護専門学校助産学科の廃止決定についての前提となっていた高知女子大における平成21年度からの8名、高知大学医学部看護学科における平成20年度からの6名の助産師養成の開始については、両校ともそれぞれの予定年度における開始の目途はたっておりません。
 また、両校における養成では、県内の助産師定着が見通せないことも指摘してきた通りです。執行部はこれまで「総合看護専門学校卒業生の最近3年間の県内への就業率は32%で、高知女子大学看護学科の県内就業率は、およそ3割で、ほぼ同程度であり、これまでと同程度の県内への就業率が見込まれる」と説明してきましたし、いまだにマスコミなどの取材にも3割程度と説明しています。しかし、実際は総合看護専門学校においては県内枠が設けられて以降、5から7名へと県内定着の実績は増えているのです。一方、女子大における助産師の定着状況は、単なる想定であって何らの実績もありません。その点からも、県内助産師の確保の面において、廃止決定とした前提の可能性が破綻しているのではないかと言わざるをえません。
 次に、何故、助産学科の存続を平成27年度末までの間とするかについてであります。
 それは、県内の就業助産師数の少なさをはじめとして年齢構成や医療機関別に見られる安定的な養成・定着の見通しを見極めるためであります。
 本県の就業助産師数は昨年末で人口10万人対比17.9人と全国下位から9県目であります。この中で、病院に勤務している50才以上の助産師が14.1%、産科診療所では45%となっているとともに、出産・育児のための休職可能年齢層は47%を占めるなど50才以上の助産師の高年齢化や出産・育児のための休職可能年齢層の助産師がどのような推移を辿るのかを見極める必要があります。
 そして、6000件近い本県の分娩件数のうち約半数近くは、全国と同様に産科診療所で取り扱われており、産婦人科医も少ない産科診療所における助産師の役割は極めて重要であります。その産科診療所に安定的に助産師を供給する役割が女子大看護学部に果たせるのかどうかも見極められなければなりません。
 また、総合看護専門学校の果たす役割を大学教育に引き継ぐという以上、女子大と高知大で養成される助産師及び奨学金利用助産師が、本県に一定数以上定着し、県内の産科診療所にも一定数就職することが実績として確認されるまでの間、助産学科は継続されるべきであると考えています。知事の10日の記者会見でのコメントからすれば、さらに女子大移転整備については慎重検討が行われると思いますが、最速22年4月に8名枠の養成が始まったとしても、卒業し県内定着状況を見届ける間も踏まえて、平成27年度末まで存続させなければと考えます。
 県周産期医療協議会における、総看廃止に対する苦言に対して、県の取るべき姿勢は「高知県で生まれる命を守る助産師という人材を安定的に確保する」ことであります。そして「産科診療所に働く助産師の養成と県下の周産期医療機関において助産師が不足しないように確保すること」であると思います。これらの姿勢を維持していくとすれば、総合看護専門学校助産学科を存続することは必然だと考えるのです。
 妊婦検診を一度も受けない未受診妊婦が増加し、飛び込み出産も増えているという状況の中で、今後は、周産期医療態勢の維持のため、できるだけ妊婦検診の受診を促していくとすれば、充分な連携を取りながらも正常産は助産師を中心に、ハイリスクや異常出産は医師が扱うという役割分担をして、産科医師の負担を減らす工夫は今まで以上に可能となるのではないでしょうか。そのことからも、助産師の必要性は今まで以上に高まることになると思われます。
 さらに、国のさまざまな少子化対策の重点施策の課題としても、母乳育児の推進、育児不安への支援が求められています。その中では、平成19年度より児童虐待の早期発見・予防を目的に、生後4か月までの全戸訪問を行う「こんにちは赤ちゃん事業」がスタートしています。このような中で、助産師は新生児訪問や育児サークル等の支援活動を通じて地域における母子の育児を長く支援してきた歴史があり、また、この領域の支援をトレーニングされた専門職であり家庭訪問者の人材として活用されるはずです。平成19年度の「生後4か月までの全戸訪問事業」及び「育児支援家庭訪問事業」の都道府県別実施状況によると本県はそれぞれが 54.3% と31.4%で、全国平均の68.5%と49.7%をいずれも下回っているという現状にあり、子育て支援の面からも有為な人材として確保されなければならないのです。
 以上述べましたようにさまざまな視点から、助産師養成と配置の必要性が問われる中、平成18年12月8日には厚生労働省医政局看護課長から各助産師養成所長に対して文書で、養成所の定員数の増加や入学者数の確保、社会人入学枠の導入等に積極的に取り組むよう重ねて依頼されておりますし、平成19年3月30日には厚生労働省医政局長から知事に対して「各都道府県におかれても、各種交付金等を積極的に活用の上、助産師の養成に御協力願いたい」との文書依頼がされているのです。
 知事の女子大の池移転整備計画については慎重に検討するという姿勢との兼ね合いでいっても、総合看護学校専門学校の対応も含めた検討というのは視野に入ってくるべきものだと思います。
 これらのことから、議会としては総合看護専門学校助産学科廃止の前提が大きく変わりつつあること、さらには、少子化対策・子育て支援対策特別委員会まで設置して、これからのこどもと母親をはじめとした命を大切にし、健やかに育ってもらうことを県政の中でも重要視していく以上、実効ある助産師養成・定着の環境を議会が提言していくことが求められていると考え、本議案を提案する次第です。
 なにとぞご審議の上、議員各位の適切な議決を賜りますよう、よろしくお願いたしまして提案理由の説明といたします。